「1日2〜3リットルの水を飲みましょう」という言葉は、健康情報で定番となっています。
しかし実際には、すべての人に当てはまる“理想の量”は存在しません。
この記事では、体重・生活環境・食事内容を踏まえた本当に健康的な水分摂取の考え方を解説します。
1. 「2リットル神話」はどこから来たのか
この数字の根拠は、1940年代のアメリカ国立研究評議会(NRC)の報告書にさかのぼります。
当時は「成人が1日に必要とする水分量は約2.5リットル」とされました。
ただし、この報告には“そのうち多くは食べ物からも摂取される”という注記がありました。
つまり、「2リットル飲まなければいけない」という意味ではなく、総水分摂取量が2〜2.5リットルで十分というのが本来の文脈です。
2. 体重で考えるとどのくらいが適正か
最新の医学文献(Mayo Clinic, 2024 / EFSA, 2023)では、
体重と活動量を考慮して以下のような目安が推奨されています。
- 一般的な目安:体重 × 30〜35mL/日
例)体重60kgの人 → 約1.8〜2.1リットル - 運動をする人・汗をかきやすい季節 → 追加で0.5〜1リットル
ここでいう「水分」には、飲み水だけでなく食事・スープ・果物などに含まれる水分も含まれます。
したがって、食事から1リットル程度摂取している人は、飲み水としては1〜1.5リットルで十分という計算になります。
3. 食事から得られる「見えない水分」
私たちは無意識のうちに、食事から多くの水分を摂っています。
米国医学研究所(IOM)のデータによると、総摂取水分のうち約20〜30%は食事由来です。
代表的な食品の水分含有量:
- スープ・味噌汁:90〜95%
- 野菜(トマト、きゅうり、レタスなど):85〜95%
- ご飯:60%前後
- 果物(スイカ、オレンジ、リンゴ):80〜90%
つまり、野菜や果物を多く摂る人は、それだけで「1リットル近くの水分」を食事から得ていることになります。
4. 水道水で十分? ミネラルウォーターとの違い
日本の水道水は、世界的にも高い安全基準を満たしています。
厚生労働省による水質基準は、WHO(世界保健機関)の基準よりも厳しい項目を含み、
基本的にはそのまま飲用して問題ありません。
ただし、地域や配管環境によって味や臭いに差が出る場合があります。
気になる場合は、浄水器・ブリタ・煮沸などで調整するとよいでしょう。
一方、ミネラルウォーターには硬水・軟水があり、
- 硬水(カルシウム・マグネシウム多い):便通改善、代謝サポート
- 軟水(日本の水に近い):胃腸にやさしく、毎日の飲用に向く
といった特徴があります。
目的に合わせて使い分けるのが理想です。
5. 飲みすぎにも注意 ― “オーバーハイドレーション”のリスク
健康意識の高い人ほど「水は多いほど良い」と考えがちですが、
過剰摂取もまたリスクを伴います。
過剰な水分摂取の弊害:
- 体内のナトリウム濃度が低下(低ナトリウム血症)
- むくみ、倦怠感、頭痛
- 睡眠の質の低下(夜間頻尿)
体の「のどの渇き」は正確なサインです。
“少し渇いたら飲む”が最も自然な水分摂取法です。
6. 理想的な飲み方のコツ
- 一度に大量に飲まない(吸収しきれない)
→ 1時間に200〜250mLが目安 - 起床後・運動後・入浴後・就寝前に分けて飲む
- 温度は常温〜ぬるめが理想(吸収率が高い)
冷水は一時的に爽快感を与えますが、胃腸が冷えることで消化力や代謝を下げることもあります。
7. まとめ:大切なのは“総量”より“バランス”
結論として、
「1日2リットル飲まなければいけない」というルールは、誤解された健康常識です。
実際には、
- 体重1kgあたり30〜35mL
- 食事・スープ・果物の水分も含めてOK
- 水道水でも十分安全
- 飲みすぎもNG
という、バランスを取った水分管理が健康的です。
水は「量」ではなく「タイミング」と「質」。
自分の体調と生活リズムに合わせて、心地よく整えていきましょう。
参考文献
- Mayo Clinic (2024). Water: How much should you drink every day?
- EFSA Journal (2023). Dietary reference values for water.
- Institute of Medicine (U.S.) (2005). Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate.
- 厚生労働省 (2023). 水道水質基準に関する省令.
- 日本栄養士会 (2022). 健康的な水分摂取と水中毒に関する指針.


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