温泉に入ると、体も心もゆるみ、まるで“疲れが溶けていく”ような感覚を覚えることがあります。
実はこの感覚、単なるリラクゼーションではなく、循環・免疫・代謝・メンタルの回復に関わる科学的根拠が続々と報告されています。
今回は、アカデミックな視点から温泉の健康効果を整理し、さらに目的別・地域別におすすめの温泉地を紹介します。
循環・代謝・血管機能への影響
温かい湯に浸かると、血管が拡張し血流が促進され、全身の酸素供給が高まります。
特に二酸化炭素泉(炭酸泉)は、皮膚から吸収された炭酸ガスが血管内皮を刺激し、血圧を下げ、末梢血流を改善する作用が報告されています(International Journal of Environmental Research and Public Health, 2019)。
おすすめ泉質:二酸化炭素泉(炭酸泉)
| エリア | 温泉地(都道府県) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 五味温泉(下川町) | 含二酸化炭酸水素塩泉。炭酸+重曹で血流促進と美肌の両立。 |
| 東北 | 大塩温泉(福島県金山町) | “天然炭酸泉”として知られ、血流改善に効果的。 |
| 関東 | 下仁田温泉(群馬県) | 関東で貴重な炭酸泉。低温でも代謝を促す。 |
| 北陸 | 木場温泉(石川県) | 炭酸泉の一例。静かな環境で長湯に最適。 |
| 中部 | 湯屋温泉(岐阜県) | 炭酸泉の名湯。心臓への負担が少なく血管トレーニングに◎。 |
| 近畿関西 | 有馬温泉(兵庫県) | 含二酸化炭素泉。金泉で体を芯から温める。 |
| 中国 | 三朝温泉(鳥取県) | 放射能泉ながら血流改善作用が強いと報告あり。 |
| 四国 | 道後温泉(愛媛県) | 単純泉だが、ぬるめで循環改善を狙いやすい。 |
| 九州 | 長湯温泉(大分県) | 日本最大級の炭酸泉地帯。血管機能改善の研究も豊富。 |
免疫・炎症・皮膚・腸内環境への作用
温泉入浴は抗炎症・免疫調整作用をもたらすことが分かっています(Frontiers in Immunology, 2020)。
特に炭酸水素塩泉(重曹泉)は、皮膚の角質を柔らかくし、乾燥肌・アトピー性皮膚炎の軽減に効果を示す研究もあります。
おすすめ泉質:炭酸水素塩泉
| エリア | 温泉地(都道府県) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 五味温泉(上川郡) | 美肌系泉質を併せ持つ複合泉。 |
| 東北 | 国見温泉(岩手県) | 緑白色の湯。皮膚炎や疲労回復に。 |
| 関東 | 喜連川温泉(栃木県) | 日本三大美肌の湯の一つ。重曹系で肌にやさしい。 |
| 北陸 | 宇奈月温泉(富山県) | アルカリ性単純泉寄りだが“美肌湯”として人気。 |
| 中部 | 白骨温泉(長野県) | 炭酸と硫黄を含む白濁湯。皮膚バリアを整える。 |
| 近畿関西 | 湯の峰温泉(和歌山県) | 含硫黄―炭酸水素塩泉で皮膚の新陳代謝を促す。 |
| 中国 | 山代温泉(石川県) | 北陸寄りながら美肌の名湯として知られる。 |
| 四国 | 道後温泉(愛媛県) | 刺激が少なく敏感肌にも適する。 |
| 九州 | 嬉野温泉(佐賀県) | 重曹泉の代表格。入浴後の肌すべすべ感が顕著。 |
メンタル・ストレス・睡眠改善効果
温泉入浴は、副交感神経を優位にし、ストレスホルモン(コルチゾール)を低下させることが報告されています(International Journal of Biometeorology, 2023)。
特に単純温泉は刺激が少なく、心身の緊張を和らげるのに最適です。
おすすめ泉質:単純温泉
| エリア | 温泉地(都道府県) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 登別・カルルス温泉 | 成分バランスが良く、神経疲労回復に◎。 |
| 東北 | 磐梯熱海温泉(福島県) | アルカリ性単純泉。安眠目的の夜風呂に最適。 |
| 関東 | 箱根湯本温泉(神奈川県) | リゾート感もあり、心のリセットに向く。 |
| 北陸 | 宇奈月温泉(富山県) | 美肌とリラックスを両立できる単純泉。 |
| 中部 | 昼神温泉(長野県) | 単純硫黄泉で神経疲労を和らげる。 |
| 近畿関西 | 城崎温泉(兵庫県) | 巡る楽しさが“心理的リトリート”に。 |
| 中国 | 三朝温泉(鳥取県) | 放射能泉ながら穏やかでストレス軽減報告あり。 |
| 四国 | 道後温泉(愛媛県) | 日本最古の温泉。旅気分でメンタル回復を。 |
| 九州 | 黒川温泉(熊本県) | “湯めぐり文化”で心理的充足度が高い。 |
冷えやすい体に:塩化物泉(保温・代謝促進)
塩化物泉は“熱の湯”とも呼ばれ、皮膚表面に塩の膜を作り体を内側から温める効果があります。
冷えやすい人、低血圧傾向の人に特におすすめです。
おすすめ泉質:塩化物泉
| エリア | 温泉地(都道府県) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 登別温泉 | 熱の湯として代表的。体を芯から温める。 |
| 東北 | 秋保温泉(宮城県) | “名取の御湯”として古くから保温目的で利用。 |
| 関東 | 箱根(神奈川県) | 多様な泉質の中でも塩化物泉が多く保温効果◎。 |
| 北陸 | 和倉温泉(石川県) | 海水由来の塩化物泉。湯冷めしにくい。 |
| 中部 | 熱海温泉(静岡県) | 海辺の強塩泉で発汗と代謝促進に優れる。 |
| 近畿関西 | 有馬温泉(兵庫県) | 金泉は高濃度の塩化物泉。体の芯を温める。 |
| 中国 | 皆生温泉(鳥取県) | “日本のハワイ”とも。冷え性改善に最適。 |
| 四国 | こんぴら温泉郷(香川県) | 保温系泉質を楽しめる宿が多い。 |
| 九州 | 指宿温泉(鹿児島県) | 砂むし+塩化物泉でデトックスにも。 |
殺菌・角質ケアなど刺激系:硫黄泉・酸性泉
殺菌力が高く、ニキビ・皮膚トラブル・角質除去に効果的とされますが、刺激が強いため短時間入浴がおすすめです。
おすすめ泉質:硫黄泉・酸性泉
| エリア | 温泉地(都道府県) | 特徴 |
|---|---|---|
| 北海道 | 川湯温泉(弟子屈町) | 強酸性×硫黄系。皮膚殺菌・角質ケアに。 |
| 東北 | 玉川温泉(秋田県) | 湯治文化の代表。pH1.2の強酸性。 |
| 関東 | 草津温泉(群馬県) | 強酸性泉の代表格。殺菌力が非常に高い。 |
| 北陸 | 中宮温泉(石川県) | 山間にある硫黄泉。静養目的にも。 |
| 中部 | 白骨温泉(長野県) | 炭酸+硫黄の白濁湯。適度な刺激。 |
| 近畿関西 | 湯の峰温泉(和歌山県) | 世界遺産の“つぼ湯”が有名。 |
| 中国 | 三朝温泉(鳥取県) | ラジウム泉で体内代謝を整える。 |
| 四国 | 祖谷温泉(徳島県) | アルカリ性単純硫黄泉。肌なじみ良い。 |
| 九州 | 明礬温泉(大分県) | 別府の白濁湯。硫黄泉の代表格。 |
まとめ ― 科学と伝統が交わる「温泉の健康効果」
温泉は“癒し”の象徴ですが、その本質は生理的ストレスリセットと代謝促進にあります。
どの泉質にも長所と注意点があり、体調や目的に合わせて選ぶことが大切です。
- 冷えやだるさ → 塩化物泉
- 美肌・皮膚ケア → 炭酸水素塩泉
- 血流促進 → 二酸化炭素泉
- 安眠・ストレス解消 → 単純温泉
- 皮膚殺菌・角質除去 → 硫黄泉・酸性泉
科学と伝統の両面から見ても、温泉は最も身近な「天然の健康法」。
旅先での入浴はもちろん、“週末の温泉リセット”を習慣化することで、心身のバランスを長期的に整えていくことができます。
参考文献
- Miyamoto et al., International Journal of Environmental Research and Public Health, 2019
- Hori et al., Frontiers in Immunology, 2020
- Sato et al., International Journal of Biometeorology, 2023
- 日本温泉協会・温泉療法専門医会『温泉療法の科学的評価と健康応用』(2022)


コメント