最近、右手の指が思うように動かず、キーボードのタイピングがしにくい。
整形外科でMRIを撮っても「異常なし」と言われた――。
実は、このようなケースは決して珍しくありません。
画像で異常が見えなくても、神経・筋膜・血流・姿勢・ストレスといった要因が重なって「機能的な障害」が起きることがあります。
この記事では、医学的知見をもとに、“異常が見えない不調”の可能性とその対処法を解説します。
1. MRIで異常がなくても、機能の問題は残る
MRIやレントゲンは「構造的な異常」を検出するには優れていますが、動かしづらさや微細な痛みの原因となる“機能的異常”までは捉えにくいという限界があります。
医学的には、画像に写らない手指障害(Idiopathic Finger Dysfunction)という概念も存在します。
特にデジタルデバイスを多用する現代では、反復的な小さな負荷が蓄積して、神経や腱、筋膜の滑りに影響を与えることが報告されています(J Hand Surg, 2021)。
2. 考えられる主な原因
神経系の要因
手根管症候群や頸椎由来の神経圧迫など、初期にはMRIで異常が出ないこともあります。
軽い痺れや、指を動かすと「引っかかる」感覚がある場合は、この可能性を疑います。
筋・腱・筋膜の要因
デスクワークによる酷使で、腱鞘炎や筋膜の滑走不全が起きると、指の動きが硬く感じられます。
炎症がなくても、組織がこわばって動きが制限されることがあります。
血流・循環の要因
冷えや自律神経の乱れで末端の血流が低下すると、指の筋肉や腱の酸素供給が減り、動かしづらさやだるさを感じやすくなります。
脳・神経の可塑性変化
同じ指を繰り返し使う作業を続けると、脳の「手指マップ(運動野)」が偏ってしまうという研究もあります(Front Neurol, 2022)。
結果として、タイピングのような繊細な操作が不安定になることがあります。
心理・姿勢の要因
ストレスや長時間の前傾姿勢は、首・肩・腕の筋緊張を高め、末梢神経の動きを制限します。
「異常なし」と言われても、こうした体全体の緊張が背景にある場合も少なくありません。
3. 自分でできるセルフケアと観察法
- 朝と夜で動かしやすさが違うか確認する
朝こわばって夜楽になる場合、腱や筋膜の滑走不全が疑われます。 - 手を温める(ぬるま湯・蒸しタオル)
血流を改善し、指の可動域を広げます。 - 1時間に一度はストレッチ
手首を回し、指を軽く開閉して筋膜を緩める。 - タイピング時の姿勢を見直す
肘は90度、手首は浮かせず水平を保つ。
椅子の高さが低いと手首に過剰な負担がかかります。 - 十分な休息と睡眠
神経・筋膜は休息中に回復します。
4. 医療機関を受診する際のポイント
「痛み」よりも、“動かしにくい”“力が入りにくい”“細かい操作が難しい”といった機能的な症状を具体的に伝えることが大切です。
整形外科で異常が見つからない場合は、
神経内科・リハビリテーション科・ペインクリニックなど、より機能面に詳しい専門医の診察を検討しましょう。
また、作業環境やストレス状況など、生活背景を含めて相談すると診断精度が上がります。
5. 科学的な視点から見る“異常なしの不調”
複数の研究で、画像上は異常がなくても、
- 末梢神経伝導の遅延
- 筋膜の滑走不全
- 筋緊張と血流低下の共存
といった“機能的な異常”が確認されています。
また、慢性的なストレスや長時間のデスクワークが、これらの状態を悪化させることも分かっています(Front Neurol, 2022)。
まとめ
「異常なし=問題なし」ではありません。
体の不調は、筋膜や神経、血流など“見えない領域”のサインとして現れることがあります。
指や手に違和感を感じたら、
まずは姿勢と環境を見直し、温めて休ませる。
それでも改善しない場合は、専門的な機能評価を受けることで、原因が見えてくることがあります。
小さな違和感を放置せず、早めにケアすることが回復の第一歩です。
参考文献
- J. Hand Surg. (2021) Repetitive Strain Injury in Office Workers: Functional Imaging and Clinical Correlation.
- Front. Neurol. (2022) Neural Adaptation and Cortical Reorganization in Hand Overuse.
- 日本整形外科学会雑誌(2023)『末梢神経障害と筋膜の関連性』
- Cleveland Clinic (2024) “Repetitive Stress Injury: Symptoms, Causes, and Treatment.”


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