耳掃除をしていて「パサパサしている」「乾いて粉のよう」と感じたことはありませんか?
実はその耳垢の性質には、体質や遺伝、そして健康状態までも映し出すサインが隠れています。
耳垢は単なる汚れではなく、**体の中の状態を映す“自然のモニター”**ともいえる存在なのです。
日本人の8割以上は「乾燥型耳垢」
耳垢には大きく分けて「湿性」と「乾性」の2タイプがあります。
この違いは、ABCC11という遺伝子によって生まれながらに決まっています。
研究によると、
- 欧米人の約90%以上が湿性タイプ
- 日本人では約80〜90%が乾性タイプ
つまり、日本人の多くはもともと乾燥しやすい耳の構造を持っています。
乾性耳垢の人は、皮膚の角質が細かくはがれ落ちるタイプ。
耳掃除をしてもパサパサした耳垢が次々出てくるのは、この体質が関係していることが多いのです。
乾燥型の耳垢が出続けるのはなぜ?
「毎日掃除してもパサパサと耳垢がたまる」という人は少なくありません。
その背景には、次のような要因が関係しています。
1. 耳の皮膚が乾燥しすぎている
乾性耳垢タイプは、皮脂の分泌が少なく乾燥しやすい特徴があります。
冬や冷暖房の多い環境ではさらに乾き、角質が細かくはがれやすくなるため、耳垢が次々出てくるように感じるのです。
対策としては、
- 入浴後に耳の中を乾かしすぎない
- 加湿器を使って部屋の湿度を保つ
- ビタミンA・Eを多く含む食材(にんじん、アーモンド、うなぎなど)を摂る
これらは、耳の皮膚を健康に保ち、過剰な乾燥を防ぐ助けになります。
2. 耳掃除の“やりすぎ”による過反応
耳掃除を頻繁に行うと、皮膚が刺激を受けて再生を急ぐため、角質のはがれ(=耳垢)が増えることがあります。
つまり、「掃除しすぎるほど耳垢が増える」という悪循環が起こりやすいのです。
耳掃除の理想的な頻度は、月に1〜2回程度。
綿棒を奥まで入れず、耳の入り口を軽くぬぐうだけで十分です。
3. 外耳炎や皮膚トラブルの可能性
耳の中がかゆい、痛い、あるいは湿った耳垢が出る場合は、外耳炎や脂漏性皮膚炎のサインかもしれません。
炎症があると皮膚がめくれやすくなり、耳垢が増えて見えることがあります。
- かゆみ
- じゅくじゅく感
- においのある分泌物
こうした症状があるときは、耳掃除をやめて耳鼻科で診察を受けるのが安全です。
4. 耳垢が奥で固まり、押し戻されている
乾性耳垢の人は、奥で耳垢が固まりやすい傾向もあります。
それが鼓膜近くで詰まって押し戻されるため、表面の耳垢が次々出てくるように感じるのです。
この状態を「耳垢栓塞(じこうせんそく)」と呼び、放置すると
- 聴こえにくい
- 耳鳴り
- 圧迫感
などの症状を引き起こします。
耳鼻科での専用器具による除去が最も安全な対処法です。
耳垢の色・匂いも体調のサイン
乾性耳垢は、体の状態によって質感や色が微妙に変化します。
- 白っぽい粉状:乾燥やターンオーバーの活発化
- 黄色っぽい耳垢:皮脂の分泌増加(湿度や気温の影響)
- 黒っぽい耳垢:古い角質や酸化、軽い出血跡
- においが強い:汗腺や皮膚トラブルの影響
変化が一時的なものなら心配はいりませんが、長期間続く場合は医療機関での確認をおすすめします。
耳垢が“体を映すデータ”になる時代へ
近年の研究では、耳垢に含まれる成分からストレスホルモン(コルチゾール)やホルモンバランスを測定する試みも進んでいます。
イギリス・ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)の研究では、
耳垢中のコルチゾール量から数週間にわたるストレスレベルを推定できると報告されました。
乾性耳垢タイプが多い日本人は、こうした分析にも適している可能性があり、
“耳垢で健康をモニタリングする”未来が近いかもしれません。
まとめ:耳掃除は「清潔」より「理解」
日本人の多くが持つ乾性耳垢は、
皮膚のターンオーバー、乾燥、刺激への反応が反映される“体の鏡”です。
過剰な掃除よりも、
耳の状態を観察し、体のバランスを整えることが本当のケアにつながります。
清潔にするより、理解する。
そんな意識で耳と向き合うと、日常の中で自分の体をより深く感じられるようになります。
免責事項
ここで紹介した内容は、研究報告や一般的な健康情報に基づいたものであり、
効果や症状の解釈には個人差があります。
体質や違和感がある場合は、耳鼻科などの専門医にご相談ください。
参考文献
- Toyoda, Y. et al. (2009). ABCC11 gene polymorphism and earwax type. Nature Genetics, 41(9), 1012–1016.
- Higashi, Y. et al. (2013). Association between apocrine glands and axillary odor. Journal of Dermatological Science, 70(2), 147–153.
- UCL News (2020). Earwax cortisol tests could measure chronic stress levels.
- 日本耳鼻咽喉科学会(2023)耳垢栓塞ガイドライン.


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