食事を記録するアプリやSNSで「1日の摂取カロリー」を管理する人が増えています。
確かにカロリーを意識することは、体重管理の第一歩として有効です。
しかし、カロリーベースの食事管理には大きな落とし穴があります。
この記事では、カロリーだけを頼りにすることの危険性と、より健全な食事観について考えます。
カロリーは「エネルギー量」であって「栄養価」ではない
まず理解しておきたいのは、カロリーはあくまで “燃焼エネルギー量” であるということです。
1,500kcalのスナック菓子と、1,500kcalの野菜中心の食事では、身体に与える影響はまったく異なります。
前者は糖質と脂質に偏り、ビタミンやミネラルが不足しやすく、血糖値の急上昇や炎症反応を引き起こす可能性があります。
つまり、同じカロリーでも質によって健康への影響は天と地ほど違うのです。
参考論文:Hall, K. D. et al. (2019). Ultra-processed diets cause excess calorie intake and weight gain: an inpatient randomized controlled trial of ad libitum food intake in humans. Cell Metabolism.
カロリー制限がもたらす「代謝の停滞」
カロリーを極端に減らすダイエットは、一時的に体重が減るかもしれません。
しかし、身体は生存本能として省エネモードに入ります。
代謝が落ち、筋肉量が減り、結果的に “食べていないのに太る” 状態になることもあります。
さらに、ホルモンバランスが崩れ、疲れやすさや集中力低下にもつながります。
研究では、極端なカロリー制限を繰り返す人ほど体重のリバウンド率が高いことが示されています。
参考論文:Mann, T. et al. (2007). Medicare’s search for effective obesity treatments: Diets are not the answer. American Psychologist.
「カロリー信仰」は食との関係を壊す
“今日は○○kcal超えたから罪悪感がある”
“食べたいけどアプリの数字が気になる”
そんな風に、数字が自分の満足感を左右していませんか?
カロリー中心の食事管理は、食べることの楽しさや、自分の感覚を奪うリスクがあります。
心身の健康において大切なのは、数字よりも 自分の体の声を聞く力 (インテューイティブ・イーティング) です。
これは、空腹や満腹、気分など、自分の内側のサインを尊重して食べる考え方です。
参考論文:Tylka, T. L. & Kroon Van Diest, A. M. (2013). The Intuitive Eating Scale–2: Item refinement and psychometric evaluation with college women and men. Journal of Counseling Psychology.
食事は「データ」ではなく「対話」
食事は単なるエネルギー補給ではなく、身体とのコミュニケーションでもあります。
どんな食べ物を選ぶか、どんな気持ちで食べるかが、心と体の健康を左右します。
たとえば、
- カロリーが低くても添加物の多い食品は腸内環境を乱すことがある
- 高カロリーでもナッツやオリーブオイルのような 良質な脂質 は健康にプラス
というように、数字の向こうにある質と意味を感じ取ることが大切です。
「質」を意識した食事の3つのステップ
1. 原材料表示を見る
数字よりも「何が入っているか」を見る習慣をつけましょう。
2. 満足感を指標にする
食後に心地よい満足感があるかどうかを、カロリーより重視します。
3. 一食単位ではなく一週間単位で見る
完璧な食事を目指すより、トータルバランスで考えることが継続のコツです。
まとめ:カロリー管理から「からだ管理」へ
カロリーを知ることは悪いことではありません。
しかし、カロリーを軸にするか、参考にするかで、食生活の質は大きく変わります。
私たちの体は、数字よりもずっと複雑で、繊細にできています。
カロリーを減らすより、自分の体と仲良くなること。
それが、本当の意味での健康的な食事の第一歩です。
参考文献・論文
- Hall, K. D. et al. (2019). Ultra-processed diets cause excess calorie intake and weight gain. Cell Metabolism.
- Mann, T. et al. (2007). Medicare’s search for effective obesity treatments: Diets are not the answer. American Psychologist.
- Tylka, T. L. & Kroon Van Diest, A. M. (2013). The Intuitive Eating Scale–2. Journal of Counseling Psychology.


コメント