最近、なんとなく気分が落ち込む、集中力が続かない。
そんなとき、もしかすると原因は「腸」にあるかもしれません。
私たちの体の中で、腸は「第二の脳」とも呼ばれています。
それは、腸が単なる消化器官ではなく、心の状態にまで影響を与えているからです。
腸が「第二の脳」と呼ばれる理由
腸には、およそ1億個以上の神経細胞が存在します。
これは脊髄よりも多く、独自の神経ネットワークを持つほどです。
脳からの指令がなくても腸は自律的に働くことができ、
そのため研究者たちは腸を「第二の脳 (Second Brain)」と呼ぶようになりました。
この腸と脳をつなぐ経路を「腸脳相関 (Gut–Brain Axis)」と呼びます。
このネットワークを通して、私たちの感情やストレスが腸に伝わり、
逆に腸の状態が気分や思考に影響を与えることが分かっています。
参考論文:Mayer, E. A. et al. (2015). Gut/brain axis and the microbiota. The Journal of Clinical Investigation.
腸内細菌が気分を左右する
腸内には、100兆個以上の細菌が住んでおり、
それぞれが体内で大切な役割を果たしています。
特に注目されているのが「セロトニン」という神経伝達物質。
これは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の安定や幸福感を支える物質です。
実はこのセロトニンの 約90%が腸でつくられている ことをご存じでしょうか。
腸内環境が乱れると、このセロトニンの生成バランスも崩れ、
気分が落ち込みやすくなったり、ストレスへの耐性が下がることがあります。
参考論文:Yano, J. M. et al. (2015). Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis. Cell.
食事が心をつくる
腸内環境を整えるうえで、最も影響を与えるのが「食事」です。
毎日の食事が、腸内細菌のバランスを大きく変えます。
腸にやさしい代表的な食品は以下のようなものです。
- 発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなど)
- 食物繊維(野菜、海藻、オートミールなど)
- オリゴ糖を含む食品(バナナ、玉ねぎ、はちみつなど)
一方で、加工食品や過剰な糖質・脂質の摂取は腸内環境を悪化させ、
不安感やイライラといったメンタルの不調を招くこともあります。
腸に良い食事を意識することは、心のバランスを整える第一歩でもあります。
ストレスが腸を乱す ― そして腸がストレスを増やす
ストレスを感じると自律神経が乱れ、腸の動きが悪くなります。
便秘や下痢が続くと腸内細菌のバランスも崩れ、悪循環が起こります。
興味深いことに、腸内環境が乱れると、
脳の「扁桃体(感情の処理を担う領域)」が過剰に反応するという研究もあります。
つまり、ストレスが腸を乱し、腸がストレスを増幅させる ― そんな双方向の関係が存在するのです。
参考論文:Foster, J. A. & McVey Neufeld, K. A. (2013). Gut–brain axis: How the microbiome influences anxiety and depression. Trends in Neurosciences.
腸と心を整える3つの習慣
1. 朝の一杯の水をゆっくり飲む
寝起きの水分補給は腸を刺激し、排便リズムを整えます。
2. 食事中は“ながら”をやめて、味わう
食べ物の香りや食感を意識すると、副交感神経が優位になり、腸の動きが活発に。
3. 夜はぬるめのお風呂で体を温める
体温が上がることで腸の血流が改善し、リラックス効果も高まります。
まとめ ― 心を癒すには、まず腸を整える
私たちは「心の問題」と「体の問題」を分けて考えがちです。
けれども実際には、心と体は深くつながっています。
腸の調子が良いと、頭がすっきりし、気分も前向きになります。
反対に腸の調子が悪いと、どんなに前向きな言葉を聞いても気持ちは上がりません。
心を元気にしたいときは、まず腸を整えることから。
それが、自分を内側から支える本当のメンタルケアです。
参考文献・論文
- Mayer, E. A. et al. (2015). Gut/brain axis and the microbiota. The Journal of Clinical Investigation.
- Yano, J. M. et al. (2015). Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis. Cell.
- Foster, J. A. & McVey Neufeld, K. A. (2013). Gut–brain axis: How the microbiome influences anxiety and depression. Trends in Neurosciences.


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