「子どもを産んだら花粉症が治った」「アレルギー体質が子どもに移った気がする」
そんな話を耳にしたことはありませんか?
実際、出産をきっかけにアレルギー症状が変化する女性は少なくありません。
しかし、それはアレルギーが“消えた”のではなく、“免疫バランスが変化した”結果であることが、最新の研究から分かっています。
1. 妊娠・出産は“免疫の再起動”期間
妊娠中の女性の体では、胎児を異物とみなして拒絶しないよう、免疫システムが意図的に抑制されます。
特にアレルギー反応に関わる「Th2型免疫(抗体を作る系)」が優位になります。
この免疫バランスの変化によって、
- 花粉症やアトピーが一時的に軽くなる人
- 逆に悪化する人
の両方が存在します。
出産後は、ホルモンの変動とともに免疫が元の状態に戻るため、一時的な症状の変化が「治った」と誤解されることもあります。
(参考:Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2022)
2. “アレルギーが子どもに移る”の真実
アレルギー自体が“母体から子へ移る”ことはありません。
ただし、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)は遺伝的に受け継がれることが知られています。
具体的には、
- 親のどちらかがアレルギー → 子どもの発症率:約30〜40%
- 両親ともにアレルギー → 子どもの発症率:約60〜80%
さらに、胎児期や授乳期の環境も影響します。
母親の腸内細菌・食生活・ストレス状態が、胎盤や母乳を通じて免疫教育に影響を与えるという研究があります。
(参考:Clinical and Experimental Allergy, 2023)
3. 出産で“体質が変わる”のはなぜか
出産後の女性では、ホルモンバランス・代謝・腸内環境が大きく変わります。
この変化によって、免疫の過敏さが緩むケースもあれば、逆にアレルギーが出やすくなるケースもあります。
例えば、出産を機に花粉症が軽くなった人は、
- ホルモン変化により免疫の過剰反応が弱まった
- 生活環境(食事・外出パターン)の変化でアレルゲン接触が減った
などの要因が重なっている可能性があります。
ただし、これは一時的な免疫リセットに過ぎず、「完治」ではないことがほとんどです。
(参考:Nature Immunology, 2021)
4. “コップ理論”は間違いではないが科学的ではない
よく「体の中のコップが溢れると花粉症になる」と表現されます。
これは比喩としては分かりやすいのですが、実際には体内のアレルゲン量だけで発症が決まるわけではありません。
花粉症の発症には、
- アレルゲンの曝露量
- 免疫系の感作状態(IgE抗体の蓄積)
- 体調や睡眠、ストレスなどの“防御力”の状態
が複合的に関係します。
つまり、「溜まりすぎたから発症する」のではなく、“許容量を下げる要因”が重なったときに発症するのです。
(参考:Allergy, 2020)
5. 母と子、両方の免疫を穏やかに保つために
- 発酵食品・食物繊維を意識的に摂る
- 睡眠とストレスケアを最優先する
- 出産後の極端なダイエットや無理な除去食は避ける
- アレルギーが出たら自己判断せず、アレルギー専門医に相談
母体と子どもの免疫は密接にリンクしています。
「子どもを産んだから治った」「遺伝だから仕方ない」といった極端な見方ではなく、
“免疫を育てる”という視点で日常を整えていくことが、長期的な健康のカギになります。
参考文献
- Journal of Allergy and Clinical Immunology (2022) Pregnancy-induced immune modulation and allergic disease.
- Clinical and Experimental Allergy (2023) Maternal microbiota and allergy risk in offspring.
- Nature Immunology (2021) Immune reprogramming after pregnancy.
- Allergy (2020) Threshold model of allergic sensitization.
- 日本アレルギー学会誌(2024)『妊娠・出産後の免疫動態とアレルギー発症リスク』

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