ストレッチは、体の柔軟性を高めるだけでなく、血流改善・姿勢補正・疲労回復といった多面的な健康効果をもたらします。
しかし、「どれくらい伸ばせばいいのか」「毎日やる必要があるのか」といった疑問は多く、自己流で行っている人も少なくありません。
この記事では、日本と世界の研究結果をもとに、最も効果的なストレッチの方法・時間・頻度を整理し、日常に取り入れやすい実践法を紹介します。
ストレッチが体に与える科学的効果
ストレッチを行うと、筋肉の粘弾性が改善し、血流・代謝・神経バランスの調整に関与することが報告されています。
静的ストレッチ(ゆっくり伸ばして止めるタイプ)は、筋肉の緊張を下げ、関節可動域(ROM)を広げる働きがあります。
国内の理学療法研究でも、ストレッチが姿勢維持や関節拘縮予防に有効であることが繰り返し確認されています(谷澤ほか, 2014)。
どのくらい伸ばすのが最も効果的か?
● 日本の研究による知見
- 10秒以下では効果が限定的:新潟厚生連リハビリテーション研究(2013)では、大腿四頭筋に対し6秒・10秒・20秒・60秒で比較した結果、10秒では柔軟性や筋緊張に有意差なし。20秒以上で明確な改善が見られました。
- 30秒で安定した効果:谷澤(2014)は、6秒より30秒保持した方が関節可動域の改善が有意に大きいと報告。
- 性別による差:女性では柔軟性の変化がゆるやかに現れるため、30〜60秒を目安にすると効果が長続きしやすいと示唆されています。
● 国際研究の一致した結論
Bandy ら(1994)は、ハムストリングスの柔軟性改善において15〜30秒で最大効果が得られ、それ以上延長しても追加効果は少ないと報告しました。
また、Chaabene ら(2019)によるレビューでも、15〜30秒が最も効率的とされ、運動前の静的ストレッチが長すぎると一時的に筋出力を下げる可能性があると指摘しています。
American College of Sports Medicine(2021)も、「10〜30秒/回 × 2〜4セット」を推奨しています。
どのくらいの頻度で行うべきか? ― “回数より累積時間”が鍵
「毎日やらないと効果がない」と思われがちですが、研究では頻度よりも“週あたりの累積時間”が重要であることが分かっています。
- Bandy ら(1997)は、6週間にわたり週5日ストレッチを行ったグループで有意な可動域(ROM)の改善を報告。
しかし、週3〜5回の範囲では効果に大きな差はなかったとも述べています。 - Ingram ら(2024)のメタ分析では、1回あたり約4分・週10分以上のストレッチ累積量が柔軟性改善の最も安定した基準であると提示。
- 他のレビューでも、「週2〜3回」から明確な効果が認められ、週1回のみでは維持が難しいと報告されています。
したがって、週2〜3回以上を目安に、1回ごとの質(持続時間・対象部位)を確保することが現実的かつ科学的に有効です。
さらに、日常の中で短時間のストレッチを小分けに行うことも、神経適応の観点から効果的とされています(Huberman, 2023)。
代表的なストレッチメニュー
● 太もも裏(ハムストリングス)
椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばしてつま先を上に。
背筋を伸ばしてゆっくり前傾し、太ももの裏が心地よく伸びるところで止めます。
20〜30秒×2回。
→ デスクワークで縮みやすい筋群に最適。
● 胸・肩(巻き肩改善)
壁に手をつき、胸を前に押し出すようにして肩の前側を伸ばします。
15〜20秒×2回。
→ 呼吸を深くしながら行うとリラックス効果も高まります。
● 股関節・もも前
立って片足を後ろに引き、足首を持ってもも前を伸ばします。
20〜30秒×2回。
→ 骨盤前傾の修正・腰痛予防に。
● ふくらはぎ
壁に手をつき、片足を後ろに伸ばしてかかとを地面につける。
15〜20秒×2回。
→ 血流促進・むくみ防止に。
まとめ ― 秒数よりも「継続」と「累積」
ストレッチの効果を決めるのは、1回あたりの時間よりも週全体でどれだけ体を動かしたかです。
日本と海外の研究を総合すると、1部位あたり週に60〜90秒以上の累積時間を確保し、週2〜3回以上続けることで、明確な柔軟性向上が期待できます。
たとえ短時間でも、継続が最大のストレッチ効果を生むことを忘れずに。
日々の習慣として“少しだけ伸ばす”意識が、体の未来を変えていきます。
参考文献
- 谷澤 真ほか(2014)『短時間の静的ストレッチングが柔軟性および筋出力に及ぼす影響』理学療法科学教育研究, 21(1): 51–56.
- 新潟厚生連リハビリテーション研究会(2013)『静的ストレッチングの有効な持続時間について』新潟厚生連医学雑誌, 22(1): 34–38.
- 中村 雅俊(2022)『ストレッチングで予防できるものとできないもの』MPTA, 33(1): 11–17.
- Bandy WD et al. (1994) Physical Therapy, 74: 845–852.
- Bandy WD et al. (1997) Phys Ther, 77: 1090–1096.
- Chaabene H et al. (2019) Frontiers in Physiology, 10: 1468.
- Ingram J et al. (2024) Sports Medicine, 54(8): 1523–1542.
- American College of Sports Medicine (2021) Guidelines for Exercise Testing and Prescription, 11th Ed.
- Huberman A. (2023) Stretching Protocols to Increase Flexibility and Support General Health.


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