続けることがいちばん難しい ― 健康習慣を”続けられる人”の科学

健康に関する情報はあふれています。
ウォーキング、食事管理、睡眠、サプリ、マインドフルネス。
けれど、”続けることが一番難しい“と感じる人が多いのではないでしょうか。

この記事では、習慣化を科学的に理解し、現実的に続ける方法を解説します。

なぜ”健康習慣“は三日坊主で終わるのか

心理学の研究では、習慣化の最大の敵は”報酬が遅いこと”とされています。
たとえば、甘いお菓子やSNSチェックはすぐ快楽を与える一方、
運動や節制は”将来の健康“という遠い報酬しかありません。

つまり脳の構造上、短期的な快楽に負けやすく、長期的な利益は感じにくいようにできているのです。

また、習慣化の初期段階では”意思の力(willpower)“を大量に使うため、
仕事や家庭のストレスが高いほど、新しい健康習慣を始めにくく、維持しづらい傾向があります。

習慣化の科学 ― “脳の自動化“を味方につける

習慣とは、脳がエネルギーを節約するための自動行動です。
イギリスのUniversity College Londonの研究によれば、
平均して66日続けると新しい行動が自動化される(=習慣化する)ことが分かっています。

つまり、最初の2カ月を”試練期間“として捉えることが大切です。
そこを超えると、脳が勝手にその行動を”デフォルト“として記憶します。

続けられる人が実践している5つの方法

1. 目標を”行動ベース”で立てる

痩せたい” “健康になりたい“は抽象的すぎます。
代わりに”朝に5分ストレッチする” “夜9時以降はスマホを見ない“といった行動単位に変換しましょう。

2. “きっかけ”をセットにする

行動科学ではこれを”トリガー“と呼びます。
歯磨き後にスクワット、コーヒーを入れたら深呼吸、通勤電車で姿勢を整える――
日常の既存行動に新しい行動をくっつけると、定着率が上がります。

3. ハードルを下げて成功体験を積む

10km走る“より”シューズを履いたらOK“から始める。
最初の目的は”続けることそのもの“。
成功体験は脳にドーパミン(快感ホルモン)を放出させ、次の行動を強化します。

4. 記録を取る(見える化)

アプリやノートで記録するだけで、自己効力感(self-efficacy)が高まります。
一度サボっても、”昨日までやれていた“という記録が再開を後押しします。

5. “やめない工夫”を先に仕込む

モチベーションが下がるのは当然です。
重要なのは、”下がったときに続けられる仕組み“を用意すること。

  • 習慣仲間を作る
  • 曜日や時間を固定する
  • 無理な負荷をかけない

継続とは、“仕組み”で支えるものです。

“サボる自分“を責めない

健康行動が続かないとき、私たちはつい”意志が弱い“と思いがちです。
しかし心理学的には、意思よりも環境のほうが行動を左右することがわかっています。
ハーバード大学の研究でも、”行動の約40%は無意識下の環境トリガーで決まる“と報告されています。

つまり、”続かない“のはあなたの性格のせいではなく、環境設計の問題なのです。
たとえば”水筒を目に見える場所に置く” “運動ウェアを枕元に置く“だけでも、実行率が劇的に上がります。

まとめ:続けるとは、”自分をうまくだますこと“

習慣化とは、”意思の力で努力する“ことではなく、
“努力しなくてもできる状態を設計する”ことです。

テストステロンを整え、水分をバランスよく摂り、姿勢を意識する――
これらもすべて、日々の小さな積み重ねが未来の健康をつくる行動です。

完璧を目指さず、7割で続ける“。
そのくらいが、人生を通して健康を育てる一番のコツです。

参考文献

  • Lally P et al. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. Eur J Soc Psychol.
  • Duhigg, C. (2012). The Power of Habit. Random House.
  • Baumeister RF et al. (2007). Ego depletion and self-control: A resource model of the self. Psychol Sci.
  • Harvard Health Publishing (2023). Why healthy habits fail—and how to make them stick.
  • 日本健康心理学会 (2024). 行動変容と継続に関する心理的要因の研究.

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